“この森で、天使はバスを降りた”を観てきました。音楽・脚本はジャイムズ・ヴァルク(James Valcq)、作詞・脚本はフレッド・アレイ(Fred Alley)、演出は藤井清美さん。キャストは、パーシーに大塚ちひろさん、ハンナに剣幸さん、シェルビーに土井裕子さん、ジョーに藤岡正明さん、エフィーに田中利花さん、ケイレブに宮川浩さん、訪問者に草野徹さん、です。
癒しと救い、そして再生のドラマ-このミュージカルを一言で表現するならば、こういう言葉になるでしょうか。それぞれに過去に傷を負い、その傷を今に引きずっているパーシーとハンナ。そして、夫に隷属して、自分を殺し、いつも何かに怯えるように暮らしているシェルビー。こんな三人も、心に悩みを抱えながらも日々の暮らしを送っていかなければならない。劇中のパーシーの「深い傷を負ったら、それが治るときは、その傷を負った時と同じくらいの痛みを感じる」という言葉通りの人生です。しかし、そんな人生でも、懸命に生きていくことによって、人は、皆救われて、再生していくのだ…そんな思いを抱かせてくれるミュージカルです。派手さはないけれど、とても感動的な作品だと思います。歌も素敵な歌がたくさんありました。過去を告白し、悲しみを新たにするパーシーを励ます際にシェルビーが歌う“ワイルド・バード(Wild Bird)”は、土居さんの素晴らしい歌声にあいまって、とても感動的です。また、剣さんの“日が暮れたよ(Way Back Home)”は、子供を思う母親の気持ちが切々と伝わってきます。そして、ラストで大塚さんによって歌われる“ひかりよ照らして(Shine On Me)”は救いと希望に満ちていて、このドラマのフィナーレにまさにふさわしい歌といえるのではないでしょうか。
今回は、出演した全ての役者さんが良かったと思います。シェルビーの土居さ
んは、演技はもちろんですが、たくさんのナンバーを美しく、時に、感動的に歌っていました。最初の夫の顔色をうかがって、おどおどしたシェルビーが、やがて、明るく活き活きと生きていく姿をとても素直に表現されていたように思います。剣幸さんは、少し頑固で、でも、とても愛情深い食堂(レストランというよりは、食堂という言葉がぴったり)の女主人をとてもリアルに演じていました。大塚さんはこの二人に同等に渡り合っていたように思います。宮川さんは、自分がかくありたいという男になろうと努力しているのになれない、というコンプレックスを持った“マッチョな”(肉体的にではなく)男を好演です。藤岡さんは、やっぱり“少しやんちゃな”保安官。(と言ったら、彼のファンに怒られるかな?)そして、田中利花さん。彼女は、レ・ミゼラブルのマダム・ティナルディしか知りませんでしたが、とても歌も演技も上手い女優さんですね。今回も、噂好きで、善意ではあるのだけれど時に人を傷つけてしまう無神経さを持っているおばさんを演じたのですが、とてもリアルティがありました。
このミュージカル、とても良い作品です。僕は東宝から何かをもらっているわけではありませんが、より多くの人にこの作品を味わってほしいと思います。
☆ このミュージカルをまだ観ぬ人へ…
美しい森のある、けれど何もない小さな小さな田舎町、ギリアド。この町に、最終バスでやってきたのはパーシー、彼女はある罪を犯し、服役を終えたばかり。服役中に見たこの町の森の紅葉の美しさに魅かれて、この町で新しい人生をやり直そうとやって来たのです。彼女を迎えたのは、保安官のジョー。彼は、彼女の働き先として、この町にただ一軒の食堂、“The Spitfire Grill”を紹介します。この食堂のオーナーがハンナ、頑固なところはあるけれど愛情深い女性です。しかし、彼女は心に深い傷を負い、その苦しみを内に秘めながら生きているのです。そんなハンナの食堂の常連の一人はケイレブ。彼はハンナの甥。彼は、一見“強い男”ではありますが、彼も心のうちに強いコンプレックスを持っていました。そして、もう一人の噂好きのエフィー。彼女は、気が良くて、そして、好奇心一杯で毎日動き回りますが、それが時として人を傷つけます。ケイレブとエフィはよそ者であるパーシーを敵視します。
ある日、ハンナが足を骨折して動けなくなります。ハンナが動けない間、食堂の切り盛りを任さられるパーシー。彼女の手伝いにやってきたのがケイレブの妻のシェルビーです。シェルビーは強権的な夫に隷属していて、常に自分を押し殺し夫の顔色を窺い、何かに怯えたようにおどおどして生きています。パーシー、シェルビー、ハンナは、食堂を切り盛りしていく間にいつの間にか気持ちを通わせるようになります。ハンナの食堂を手放したいという気持ちを知ったパーシーは、一口100ドルで、食堂についてのエッセイコンテストを行い、最優秀者に食堂を譲ることを提案し、このコンテストが実施されることになります。
やがて、季節はめぐり、ハンナの食堂に全米各地からエッセイが舞い込むようになります。そのエッセイにもその作者の様々な人生が描かれているのです。そして、パーシー、ハンナにも、深い心の傷がある。それぞれにその心の闇を告白する時がやってきます。
それぞれの心の傷とは何なのか…パーシー、ハンナ、シェルビーはそれぞれの新しい人生を歩み始めることができるのでしょうか…?
最近のコメント